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サーバント・リーダーシップを実践する:日常から始める5つのステップ

2025.10.05
学術研究・論文


前回の記事では、サーバント・リーダーシップの理論と企業事例をご紹介しました。今回は、この理念を私たち一人ひとりが日常生活や職場でどのように実践できるかについて考えてみたいと思います。「リーダーシップ」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、実は誰もが日々の小さな選択の中で発揮できるものなのです。


なぜ今、サーバント・リーダーシップが必要なのか

サーバント・リーダーシップは1970年に提唱されて以降、半世紀以上にわたり多くの組織で実践され、現代においても注目を集め続けています。その背景には、従来型の「トップダウン」リーダーシップが現代の複雑で変化の速い職場環境に対応しきれなくなっているという現実があります。例えば、変化の速い環境下では、一人のリーダーがすべての答えを持つことは不可能です。むしろ、チーム全員の知恵と創造性を引き出し、自律的に行動できる組織づくりが求められています。

サーバント・リーダーシップの効果は、多くの実証研究で確認されています。Eva et al. (2019)による包括的な研究調査(54件の先行研究を統合分析)によると、、サーバント・リーダーシップが従業員のパフォーマンス、組織市民行動、創造性に正の影響を与えることが示されています。また、Liden et al. (2008)の研究では、サーバント・リーダーシップが従業員のエンゲージメントと組織へのコミットメントを有意に高めることが実証されました。さらに、メンタルヘルスの観点からも、支援的なリーダーシップ環境は従業員のウェルビーイングを向上させることが確認されています。

実践への5つのステップ

ステップ1:傾聴から始める
サーバント・リーダーシップの第一歩は「傾聴」です。しかし、ここで言う傾聴は、単に相手の話を聞くことではありません。相手の言葉だけでなく、その背後にある感情、価値観、ニーズを理解しようとする深い関心を持つことです。

日常での実践例:

・相手の話を遮らず、沈黙の時間も大切にする

・会議で発言する前に、まず他者の意見を最後まで聞く

・携帯電話を置き、パソコンは閉じ、目を見て話を聞く時間を作る

・「あなたの考えをもっと聞かせてください」と尋ねる習慣をつける


ステップ2:共感を育む 共感とは、相手の立場に立って物事を見る能力です。これは単なる同情ではなく、相手の視点から世界を理解しようとする積極的な姿勢を意味します。

職場での実践例:

・「大変でしたね」と相手の感情を認める言葉をかける

・批判する前に「この人はなぜそう考えるのか」を想像する

・異なる部署の人の仕事の大変さを理解しようとする

・チームメンバーの個人的な状況(家族の事情など)にも配慮する

Edmondson & Lei (2014)の研究によると、リーダーの共感的な態度は職場の心理的安全性を高め、その結果としてチームメンバーが新しいアイデアを提案しやすくなり、イノベーションが促進されることが示されています。

ステップ3:成長を支援する質問をする

サーバント・リーダーは、答えを与えるのではなく、相手が自分で答えを見つけられるよう支援します。そのために効果的なのが「コーチング型の質問」です。効果的な質問の例:

・「どんなサポートがあれば、それを実現できますか?」

・「この状況から何を学べると思いますか?」

・「もし制約がなかったら、どうしたいですか?」

・「あなたの強みをどう活かせるでしょうか?」

これらの質問は、相手の自律性を尊重しながら、自己認識と成長を促します。

ステップ4:小さな奉仕の習慣を作る

サーバント・リーダーシップは、日々の小さな行動の積み重ねから生まれます。壮大な計画よりも、今日できる小さな奉仕から始めましょう。

具体的な行動例:

・チームメンバーの成功を自分のことのように喜ぶ

・新入社員や困っている同僚に自分から声をかける

・会議室の後片付けを率先して行う

・同僚の良い仕事を認め、感謝を伝える

・自分の知識やスキルを惜しみなく共有する

Chancellor et al. (2018)の研究では、職場における日常的な向社会的行動(小さな親切や支援行動)が、行動した本人だけでなく、それを受けた人や観察した人にも良い影響を与え、組織全体に「親切の連鎖」を生み出すことが示されています。

ステップ5:自己省察を習慣化する

サーバント・リーダーシップの実践には、継続的な自己認識が不可欠です。自分の行動、動機、そして影響を定期的に振り返ることで、より良いリーダーシップを育むことができます。

省察のための問いかけ:

・自分の言動は、組織の価値観と一致していただろうか?

・今日、誰かの成長を支援できただろうか?

・自分のエゴが判断を曇らせていなかっただろうか?

・チームメンバーの声に十分耳を傾けただろうか?

・週に一度、15分程度の省察時間を設けることをお勧めします。

陥りやすい罠と対処法

サーバント・リーダーシップの実践には、いくつかの注意点があります。

罠1:自己犠牲の罠

「奉仕」を「自己犠牲」と混同しないことが大切です。自分のウェルビーイングを犠牲にすることは、持続可能なリーダーシップにはつながりません。

対処法: 自己ケアを優先し、健全な境界線を設定する。「ノー」と言うことも、時には奉仕の一形態となります。

罠2:優柔不断との混同

サーバント・リーダーシップは、決断力の欠如を意味しません。他者の意見を尊重しながらも、必要な時には明確な決断を下すことが重要です。

対処法: 透明性を持って意思決定プロセスを共有し、なぜその決断に至ったかを説明する。

罠3:結果を無視する

他者への配慮は重要ですが、組織の成果や目標達成を無視してはいけません。

対処法: 人を大切にすることと、高い基準を維持することは両立できます。明確な期待値を設定し、サポートと説明責任のバランスを取る。

組織レベルでの実践

個人の実践に加えて、組織全体でサーバント・リーダーシップ文化を育むことも重要です。

組織としての取り組み例:

・成功事例の共有会を開催し、奉仕の文化を可視化する

・リーダーシップ評価に「他者の成長支援」を含める

・メンタリングプログラムを制度化する

・従業員の声を聞く仕組み(定期的な1on1、匿名フィードバックシステムなど)を構築する

まとめ:旅は一歩から

サーバント・リーダーシップは一朝一夕に身につくものではありません。それは継続的な学習と実践の旅です。完璧を目指すのではなく、毎日少しずつ「奉仕の心」を育てていくことが大切です。

グリーンリーフは「サーバント・リーダーシップの最良のテストは次のようなものだ:奉仕される人々は人として成長しているか?(The best test is: Do those served grow as persons?)」と述べています。あなたの周りの人々は、あなたとの関わりを通じて成長しているでしょうか?その問いかけから始めてみませんか。

次回は、サーバント・リーダーシップと個人のウェルビーイングの関係について、最新の心理学研究を交えながら探っていきたいと思います。

参考文献:

Greenleaf, R. K. (1970). The servant as leader. Robert K. Greenleaf Center.

Van Dierendonck, D. (2011). Servant leadership: A review and synthesis. Journal of Management, 37(4), 1228-1261.

Eva, N., Robin, M., Sendjaya, S., van Dierendonck, D., & Liden, R. C. (2019). Servant leadership: A systematic review and call for future research. The Leadership Quarterly, 30(1), 111-132.

Liden, R. C., Wayne, S. J., Zhao, H., & Henderson, D. (2008). Servant leadership: Development of a multidimensional measure and multi-level assessment. The Leadership Quarterly, 19(2), 161-177.

Edmondson, A. C., & Lei, Z. (2014). Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1(1), 23-43.

Chancellor, J., Margolis, S., Jacobs Bao, K., & Lyubomirsky, S. (2018). Everyday prosociality in the workplace: The reinforcing benefits of giving, getting, and glimpsing. Emotion, 18(4), 507-517.

Schaubroeck, J., Lam, S. S., & Peng, A. C. (2011). Cognition-based and affect-based trust as mediators of leader behavior influences on team performance. Journal of Applied Psychology, 96(4), 863-871.

Hoch, J. E., Bommer, W. H., Dulebohn, J. H., & Wu, D. (2018). Do ethical, authentic, and servant leadership explain variance above and beyond transformational leadership? Journal of Management, 44(2), 501-529.

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大学教員(博士・心理学)。専門はリーダーシップ教育。包容力のあるやさしい社会・組織づくりのための教育に情熱を注いでいる。「リーダーシップの探求:変化をもたらす理論と実践」(早稲田大学出版部)共訳者。「Global Leadership for Equity and Inclusion in Education: Geopolitical Issues, Diverse Perspectives, and Critical Praxis」(Routledge)共著者。

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