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遺伝は運命ではない。後天的に幸せになれる、行動遺伝学とウェルビーイング研究の交差点

日々是幸日

私たちは何かに挑戦してうまくいかないときに「私には(あるいは、あなたには)才能がない」と思ったりします。その一方で、「努力すれば何にでもなれる」と言われることもあります(卒業式のような節目の祝辞で聞くことが多い気がします)。この言葉によって希望や勇気をもらった人もいる一方で、「何かになれないのはまだ努力が足りない」といった一元的な自己責任の感覚が固定化されてきたような気もします。今回ご紹介する行動遺伝学は、その二つのどちらにも属さない答えを、数十年の研究から積み重ねてきた学問であることを知りました。

行動遺伝学とは、遺伝と環境がそれぞれ人の行動・能力・性格にどの程度影響するかを、主に双生児研究を通じて明らかにする学問です。一卵性双生児(遺伝子が100%同じ)と二卵性双生児(約50%共有)の類似度を比較することで、遺伝の影響を定量的に推定します。双生児研究の第一人者・安藤寿康教授(慶應義塾大学名誉教授)は「どんな仕事のどんな能力であれ、遺伝の影響は約半分程度ある」と述べており、IQに至っては成人の遺伝率が50〜80%にのぼるとする研究結果もあります(Plomin et al., 2008)。

ただ、「遺伝率」は、個人の可能性の上限というわけではないんですね。ある集団内での個人差のうち遺伝で説明できる割合を示す統計指標であり、「あなたはここまでしか伸びない」を意味するものでありません。遺伝の影響が半分あるということは、残り半分は環境・習慣・経験によって変わる、ということでもあります。

ウェルビーイング研究と行動遺伝学が深く交差する地点に、「心配性遺伝子」と呼ばれるセロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)があります。この遺伝子にはSS型・SL型・LL型という三つの型があり、SS型の人はセロトニン(気分の安定に関わる神経伝達物質)の取り込みが少なく、不安を感じやすい傾向があることが知られています。この遺伝子型の分布は国・民族によって大きく異なります。LL型(楽観的傾向と関連)を持つ人の割合は欧米に比べて東アジア・日本では著しく低く、SS型の割合が高いことが複数の研究で示されています。特に、Matsunagaらの研究(2013年、Psychology of Well-Being)は、日本人92名を対象に5-HTTLPRと主観的幸福感の関連を実証的に検証し、国際的な幸福度格差の一因として遺伝子型分布の差を検討した非常に興味深い研究です。

この話は、日本のウェルビーイング研究とも繋がっています。前野隆司教授(武蔵野大学ウェルビーイング学部長・慶應義塾大学名誉教授)が示した「幸せの4因子」のうち、「なんとかなる因子」(楽観性・自己効力感)と「ありのままに因子」(自己受容・他者への開放性)が高い人は幸せであることがわかっています。SS型の傾向(不安を感じやすく、周囲の評価に敏感になりやすい)は、その逆を向いています。遺伝的な傾向に加え、「周りを見ながら自分を評価する」日本の文化的土壌も重なって、「なんとかなる」と思えなかったり、「ありのまま」でいることへの居心地の悪さが生まれやすかったりする構造が見えてきます。

一方で、前野教授の幸せの4因子は、いずれも生まれつき決まっているものではなく日常の実践の中で育てられるものとして位置付けられています。感謝を意識する習慣、心理的安全性のある場、小さな達成体験の積み重ね・・・。遺伝的傾向があっても、残りの半分は後天的な環境や選択によって幸福感に働きかけることができることが研究で示されています。そういった事実を知ると、私たちひとり一人は、何になろうとしているとしても、その旅路の過程で、まだまだ幸せになる伸びしろがあると言えそうです。

今回ご紹介した「日本の人事部」の記事は、行動遺伝学を知るきっかけとしても、そしてウェルビーイングの視点からもとても興味深い内容でした。よろしければぜひご一読を!

出典・参考文献・参考サイト

能力や性格は遺伝の影響をどのくらい受けるのか。行動遺伝学に学ぶ、採用・育成・配置の「限界」と「希望」(日本の人事部)
https://jinjibu.jp/article/detl/keyperson/3999/
Plomin R., DeFries J.C., McClearn G.E., McGuffin P.(2008)「Behavioral Genetics」Worth Publishers.
Matsunaga M. et al.(2013)「Association between the serotonin transporter polymorphism (5HTTLPR) and subjective happiness level in Japanese adults」Psychology of Well-Being.
https://doi.org/10.1186/2211-1522-3-5

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父/夫/Webプロデューサー

自宅庭にあるレモングラスのハーブティーとエナジードリンクとプロギング好きの当サイトWebプロデューサーです。幸福学の第一人者、前野隆司教授のVoicyにある「ディープタイムウォークVoicy版」を聞きながら森の中を歩くことにかなり心地良さを感じてます。三島ウェルビーイング協議会/ウェルビーイングプロギング代表。プロギングジャパン認定プロギングリーダー、GLOBIS公認学び放題アンバサダー、デジタル庁 地域幸福度(Well-being)指標活用ファシリテーター、ウェルビーイング ダイアログカード認定ファシリテーター、静岡県三島市在住です。SNS繋がり大歓迎です!

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