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黙々と手を動かす時間が、なぜ幸せをつくるのか。江戸切子職人に学ぶ「手仕事のウェルビーイング」

大学・研究機関

最近、編み物がひそかなブームになっているそうです。手芸店の毛糸が品薄になるほどの人気ぶりで、SNSには黙々と針を動かす動画があふれています。この現象を見たとき、「なぜ人はこれほどまでに、手を動かす行為に引き寄せられるのだろうか」という問いが頭に浮かびました。

一般社団法人ウェルビーイングデザインが公開した「感性とウェルビーイングシリーズ」のインタビューレポートは、その問いに一つの腹落ちする答えを与えてくれます。このレポートで取り上げられているのは、江戸切子の職人さんです。ガラスに緻密な文様を刻み続ける手仕事の世界を通じて、私たちの感性と幸福感の深いつながりが探られています。

ここで注目したいのは、手仕事が生み出す「没入」の質です。シカゴ大学名誉教授である心理学者のミハイ・チクセントミハイ教授が提唱した「フロー理論」というものがあります。これは、自分の持っている技術と、目の前の適度な挑戦のバランスがぴったりと取れた活動に没頭するとき、時間の感覚すら忘れて深い充実感を得る状態(フロー状態)を指します。職人さんが刃を入れる角度を微調整しながら、息を詰めて文様を刻む行為は、まさにこの条件を満たしています。チクセントミハイ教授の研究でも、日常の中でこのフロー状態を経験する頻度が高い人ほど、主観的な幸福感も高いことが示されています。

さらに、手仕事には「具体的な成果が手元に残る」という大きな魅力があります。現代のデジタルの仕事では、せっかくの成果も画面の向こう側にスッと消えていきがちです。AIで生成すれば、まったく同じものではないですが、トークンが許せば無限に生成することもできます。しかし、切子の美しいグラス一つ、編み上がったマフラー一枚は、確かな重さと温度を持って私たちの手の中に存在し続けます。自分の手で何かを形にし、やり遂げたという純粋な達成感が、視覚のみならず、それ以外の触覚を通じてダイレクトに私たちの心を満たしてくれるのだと思います。

編み物ブームはSNSをきっかけに広まったものですが、その核心にあるのは、デジタルとは逆方向の「手ざわりのある体験」への回帰ではないでしょうか。スマートフォンのスクロールを止めて、自分の手を動かしてみる。その小さな選択が、研究が示すウェルビーイングの経路と美しく重なっています。私が尊敬する武蔵野大学の前野隆司教授が繰り返し語る「やってみよう」という幸せの因子も、こうした小さな行動と達成の積み重ねによって育まれていくものです。手仕事は、私たちの心を満たす、最も基本的で確かな感覚のカタチなのかもしれません。

出典・参考文献・参考サイト

インタビューレポート「感性とウェルビーイングシリーズ ~江戸切子職人の手仕事と幸福感~」(一般社団法人ウェルビーイングデザイン)
https://www.well-being-design.jp/news/1264/
Csikszentmihalyi, M.(1990)”Flow: The Psychology of Optimal Experience” Harper & Row.

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父/夫/Webプロデューサー

自宅庭にあるレモングラスのハーブティーとエナジードリンクとプロギング好きの当サイトWebプロデューサーです。幸福学の第一人者、前野隆司教授のVoicyにある「ディープタイムウォークVoicy版」を聞きながら森の中を歩くことにかなり心地良さを感じてます。三島ウェルビーイング協議会/ウェルビーイングプロギング代表。プロギングジャパン認定プロギングリーダー、GLOBIS公認学び放題アンバサダー、デジタル庁 地域幸福度(Well-being)指標活用ファシリテーター、ウェルビーイング ダイアログカード認定ファシリテーター、静岡県三島市在住です。SNS繋がり大歓迎です!

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