ヒーロー劇を通じて子どもの幸福感を高める。。。福井県で進むそんなユニークな官民連携の取り組みが、日本経済新聞で紹介されていました。「ヒーロー劇」という言葉の意外性に最初はやや驚きましたが、よくよく考えれば、これはウェルビーイング研究の文脈で極めて理にかなったアプローチのように思います。
なぜ、ヒーロー劇が幸福感につながるのでしょうか。私たちは普段、幸福を「所得」や「地位」といった数値で測りがちですが、ウェルビーイングにおいて重要なのは、他者と感情を分かち合う「つながり」の体験です。福井県の幸福実感共創ラボ「ふくウェル」が企画したこの劇は、単なる娯楽に留めず、子どもたちが善悪や勇気、協力といった価値を身体ごと追体験し、その場にいる大人たちとも感情を共有する。この「物語への没入」と「体験の共有」を心の豊かさを育む鍵として捉えています。
この体験の力を、心理学の知見からもう少し掘り下げてみますと、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、スタンフォード大学のジャム・ザキ教授は、著書『The War for Kindness』の中で、物語に深く感情移入する体験が共感能力を研ぎ澄まし、他者との心理的な距離を縮めることを指摘しています。地域の物語を皆で共有する時間は、コミュニティにおける感謝やつながりを深めます。感謝やつながり感が高い人は幸福度が高いといった前野隆司教授による研究結果もあります。
そして、私のつたない経験として、私が暮らす静岡県三島市においても、三島ウェルビーイング協議会の活動で地域の幸せを考える際に、私がいつも痛感するのは「体験の共有」が持つ引力の強さです。どれほど精緻な理論や知識を届けようとしても、当然ですが、それだけでは人の心は動きません。一緒に物語を感じ、笑い、驚く瞬間にこそ、地域のつながりは実質を伴って動いていくんです。福井県の取り組みは、この「体験の知恵」を官民連携という社会実装の形に落とし込んだ先行事例であり、私たちにとっても非常に示唆に富むモデルだと思います。
物語には、人を動かす力があります。その力を地域のウェルビーイング政策という「現実」にどう組み込んでいくか。私たちが暮らす町においても、隣にいる誰かと笑顔で接することができるような、そんな小さな物語を育むことから始めていきたいものです。その小さな物語の積み重ねが、私たちの足元の暮らしからより幸せに生きる大切な道を作って行くことなのかもしれません。(日本経済新聞は、会員登録すると、月1本は無料で閲覧する事ができます。)
出典・参考文献・参考サイト
ヒーロー劇通じ「幸福感」育む 福井県、官民連携で取り組み(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC134OB0T10C26A4000000/
Zaki, J.(2019). The War for Kindness: Building Empathy in a Fractured World. Crown.
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