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健康経営10年目の節目、「メンタルヘルス」を予防医学の文脈からウェルビーイングの文脈に。

日々是幸日

2026年3月、「健康経営優良法人2026」の認定数が過去最多を更新し、大規模法人部門で3,765法人、中小規模法人部門で23,085法人、合計2.6万法人超が認定されました。制度が始まった2016年度から数えて、ちょうど10年目の節目です。日経平均株価を構成する225銘柄の8割を超える企業が健康経営度調査に回答するなど、一部の先進企業の取り組みだった健康経営が、日本の産業界の標準へと変わりつつあることをこの数字は示しています。

注目したいのは、認定数の拡大よりも、評価軸の変化です。今回の2026年版で特に目を引くのは、「メンタルヘルス対策」という言葉が「心の健康保持・増進に関する取り組み」へと改められた点です。語感の違いだけのように聞こえるかもしれませんが、これはかなり本質的な転換です。「問題が起きてから対処する」という発想から、「そもそも健康でいられる環境をつくる」という発想へのシフト。つまり、メンタルヘルスを予防医学の文脈ではなく、ウェルビーイングの文脈で捉え直すということです。

この転換を理論の側から支えているのが、ポジティブ心理学の創設者のひとりであるマーティン・セリグマン教授(ペンシルバニア大学)が提唱したPERMAモデルです。ポジティブ感情(Positive emotion)、関与(Engagement)、関係性(Relationships)、意味(Meaning)、達成(Accomplishment)という5つの要素が重なる状態を「フローリッシング(Flourishing)」と呼び、これが持続的なウェルビーイングの条件だとされています。職場の心理的安全性や人間関係の豊かさが評価項目に組み込まれてきた今回の変化は、まさにPERMAのRとMに対応するものと言えます。

2026年版で加わったもうひとつの変化も見逃せません。これまでの健康経営は「自社の従業員」への施策が主軸でしたが、今回はサプライチェーンや家族、地域社会といった「ステークホルダー全体」への配慮が明確に求められるようになりました。企業の健康経営が「内」だけでなく「外」へも広がることで、地域コミュニティ全体のウェルビーイング向上につながるという視点です。

実際、自治体レベルでもウェルビーイングへの取り組みは着実に広がっています。熊本県では平成24年度から独自の幸福度指標や住民参加型の政策形成を進めてきており、震災や豪雨という困難な状況のなかでも幸福度の数値が安定して維持されているとされています。富山県はウェルビーイングを県の成長戦略の中心に位置付け、独自指標の設定や特設サイトによる情報発信を行っています。

一方で、認定数の増加には一つ大切な問いが伴います。「認定を取ること」が目的化していないか、ということです。経済産業省は認定法人に評価結果のフィードバックシートを送付し、他社との比較を通じた継続的な改善を促しています。数値を公表することへの外部からの視線が、質の向上を促す仕組みとして機能していくかどうかが、これからの10年の鍵になります。

ウェルビーイング研究をしていますと、企業のご担当者の方々とお話しをさせていただく機会があります。そういった中で、「認定は取っていますが、現場の実感は伴っていません。」という声を聞くことが実は少なくありません。もちろん、認定と現場実感が一致している方が良いことだとは思いますが、10年かかったとはいえ、認定企業がここまで確かに広がってきたことは、日本にとって本当に素晴らしいことだと思います。

制度の整備と現場の体感の距離感は、指標だけでは埋められない部分です。職場の一人ひとりが「心身ともに良い状態でいられているか」という感覚を、数字と並走させながら問い続けることが、健康経営が本当の意味でウェルビーイング経営になっていく道筋なのではないかと思います。まだまだ伸びしろがあると捉えて、一歩ずつ前に進み続けていくことで、日本の会社は、「いい会社」になっていくのだと思います。

出典・参考文献・参考サイト

「健康経営優良法人2026」過去最多2.6万法人超を認定|量から質へ、ウェルビーイング経営の新潮流(SDGs特化メディア mirasus)
https://mirasus.jp/society/19865
マーティン・セリグマン(2014)『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ』宇野カオリ監訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン.
https://www.amazon.co.jp/dp/4799315765

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父/夫/Webプロデューサー

自宅庭にあるレモングラスのハーブティーとエナジードリンクとプロギング好きの当サイトWebプロデューサーです。幸福学の第一人者、前野隆司教授のVoicyにある「ディープタイムウォークVoicy版」を聞きながら森の中を歩くことにかなり心地良さを感じてます。三島ウェルビーイング協議会/ウェルビーイングプロギング代表。プロギングジャパン認定プロギングリーダー、GLOBIS公認学び放題アンバサダー、デジタル庁 地域幸福度(Well-being)指標活用ファシリテーター、ウェルビーイング ダイアログカード認定ファシリテーター、静岡県三島市在住です。SNS繋がり大歓迎です!

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