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「動くこと」が心に届く。精神疾患とフィットネスをつなぐ、広島の現場から

日々是幸日

広島県内のクリニックや就労支援の作業所で、精神疾患のある人を対象にしたフィットネスの導入が相次いでいるというニュースを読みました。合言葉は「ウェルビーイング」。この取り組みが、単なる健康増進策にとどまらない意味を持っていると感じたのは、精神疾患のある人が「体を動かすこと」と「心の回復」をどのようにつなぐかという問いが、ウェルビーイング研究の中でも長く検討されてきたテーマだからです。

運動と精神健康の関係は、多くの研究が示してきました。神経精神医学の世界的な専門家、ジョン・J・レイティ博士(ハーバード大学医学大学院)は、著書『脳を鍛えるには運動しかない!』(原題 SPARK)の中で、有酸素運動が脳のBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促し、うつ症状の緩和や認知機能の改善に働くことを詳しく論じています。

また、コクラン共同計画による「Exercise for depression<うつ病に対する運動>」というシステマティックレビューは、2013年の公表以降も更新が重ねられ、2026年1月に最新版が出ました。アンドリュー・J・クレッグ氏らがまとめた最新版では、73件のランダム化比較試験、およそ5,000人の成人のデータが統合されています。そこでは、何も治療を受けない場合と比べて、運動がうつ症状を中程度まで減らすことが示されました。

特に注目したいのは、心理療法との比較です。10件の試験にもとづく中程度の確実性の証拠として、運動は心理療法と同じくらいうつ症状を改善したと報告されています。抗うつ薬との比較でも同程度という結果でしたが、こちらは根拠となる試験が少なく、確実性は低いとされています。「薬か運動か」という二項対立ではなく、「運動もケアの選択肢のひとつになりうる」という認識に、研究の側が追いついてきたということです。

コクラン共同計画というのは、世界中の臨床研究を集めて「その治療は本当に効くのか」を検証している国際的な研究者のネットワークです。同じテーマのレビューが十数年かけて更新され続けていること自体が、この問いが重視されてきたことの表れでもあります。

注目したいのは、広島の取り組みがこの流れをクリニックや作業所という日常的な場で実装しようとしている点です。精神疾患のある人にとって、「体を動かす機会を日常的に持つ」という環境設計そのものが支援になる。大きな意志の力で運動習慣を持つ、ではなく、場の設計として運動が組み込まれていることの重要性を、この取り組みは体現しています。

プロギングのイベントを三島で企画する中でも、似たようなことを感じてきました。「健康のために運動しよう」と呼びかけるより、「地域の仲間と楽しく体を動かす場所がある」という環境を整えることを意識しています。実は、運動の効果よりも先に、「動きたくなる文脈」を設計することが、支援の鍵になるのではないかと考えています。

自己決定理論(SDT)を提唱したロチェスター大学のエドワード・デシ教授とリチャード・ライアン教授の研究では、人が行動を継続するためには「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本心理欲求が満たされる必要があることが示されています。就労支援の場でフィットネスを取り入れることは、この3つすべてに働きかける可能性を持っていると思います。自分で参加を選べる自律性、体を動かして「できた」という有能感、そして仲間と一緒に動く関係性。それらの組み合わせが、精神的な回復の土台を支えるといえるのではないでしょうか。

2026年版には、現場で使える具体的な数字も出ています。強度の高い運動より、軽度から中程度の運動のほうが効果が大きかったこと。そして13回から36回のセッションを終えた人に、より大きな改善が見られたこと。週2回のペースなら、およそ1か月半から4か月にあたります。息が上がるまで追い込む必要はなく、続けられる強さで、季節がひとつ変わるくらいの期間を見込む。広島のクリニックや作業所が日常の場に運動を組み込もうとしているのは、この「続けられること」を設計に落とし込む試みだと言えます。

また、前野隆司教授(武蔵野大学ウェルビーイング学部長)が提唱する「幸せの4因子」のひとつに「なんとかなる因子」があります。前向きさと楽観性が幸福感を支えるという因子です。体を動かして「昨日より少し長く歩けた」という手応えが積み重なることは、この因子を内側から育てることに繋がります。運動の効果は身体的なものだけにとどまりません。「自分は回復に向かっている」という見通しを取り戻す経路による幸福度の向上への寄与があるということです。

「動くこと」が心に届くために先に必要なのは、意志の強さというよりも、その人が安心して体を動かせる「場」と、そこにいる人との「関係性」であることを、あらためて認識させていただく記事でした。(※今回の情報ソースの記事ページ全文を読むには会員登録が必要でしたが、無料会員登録をすることで全文を読む事ができました。)

出典・参考文献・参考サイト

精神疾患ある人向けにフィットネス 広島のクリニックや作業所で導入相次ぐ(47NEWS/中国新聞)
https://www.47news.jp/14588702.html
Cooney, G.M., et al.(2013)「Exercise for depression」Cochrane Database of Systematic Reviews, 2013(9), CD004366.
https://doi.org/10.1002/14651858.CD004366.pub6
Clegg, A.J., et al.(2026)「Exercise for depression」Cochrane Database of Systematic Reviews, 2026(1), CD004366.
https://doi.org/10.1002/14651858.CD004366.pub7
Deci, E.L., & Ryan, R.M.(2000)「Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being」American Psychologist, 55(1), 68–78.
https://doi.org/10.1037/0003-066X.55.1.68

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父/夫/Webプロデューサー

自宅庭にあるレモングラスのハーブティーとエナジードリンクとプロギング好きの当サイトWebプロデューサーです。幸福学の第一人者、前野隆司教授のVoicyにある「ディープタイムウォークVoicy版」を聞きながら森の中を歩くことにかなり心地良さを感じてます。三島ウェルビーイング協議会/ウェルビーイングプロギング代表。プロギングジャパン認定プロギングリーダー、GLOBIS公認学び放題アンバサダー、デジタル庁 地域幸福度(Well-being)指標活用ファシリテーター、ウェルビーイング ダイアログカード認定ファシリテーター、静岡県三島市在住です。SNS繋がり大歓迎です!

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