ウェルビーイングに関連する論文の中で、「運動が気分に良い影響を与える」という研究結果は、比較的多いように思います。それらは日常生活のレベルでどこまで証明されているか。今回紹介する論文は、まさにその問いに答える内容そのものです。
2026年5月、科学誌「Nature Human Behaviour」に掲載されたRehder博士らによる大規模な研究が、身体活動と情動的ウェルビーイング(affective well-being)の関係を非常に丁寧に明らかにしています。「個人参加者データのメタ分析(Individual Participant Data Meta-Analysis)」という手法を用いた研究で、これは複数の研究から個人レベルのデータをひとつひとつ集めて統合的に分析するという、精度の高い方法です。
ちなみに、「情動的ウェルビーイング」とは、日々の生活のなかでどれだけポジティブな感情を感じているか、ネガティブな感情が少ないか、という状態のことを指します。幸福感の「瞬間瞬間の質」と言い換えてもよいかもしれません。
今回の研究は、その規模が特徴の1つです。スマートフォンで記録された情動的ウェルビーイングの評価が321,345件、身体活動の計測時間はおよそ100万時間に達します。これほどの規模のデータで、日常生活における身体活動と気分の関係を調べたというのが、これまでの研究と一線を画しています。多くの先行研究が実験室環境での短期的な測定に依存していたりするケースが多いのに対し、この研究は人々のごく普通の毎日のなかでのデータを使っている点がとってもユニークです。(実は、この分野の研究については、日立製作所フェロー・株式会社ハピネス・プラネットの代表、矢野和男さんが大変有名ですね。)
では、実際に何がわかったのか。研究の結果として特に印象的だったのは、対象者の95%以上が身体活動の前後でエネルギー感(活力)がより高まったと報告している点です。8,000人を超える参加者のほぼ全員に当てはまるという普遍性を示しています。さらに重要な発見として、もともとウェルビーイングが低い状態にある人ほど、身体活動からより大きな恩恵を受けることも明らかになっています。「気分が落ちているときほど、体を動かすことが大切」ということが、大規模な実データで示唆されています。気分が落ちたら体も動かしたくなくなってしまいますが、そんなときには、敢えて、気分を上げるために体を動かしてみてはいかがでしょうか。
「幸せは日頃のどんな行動から生まれるのか」という問いは、私の興味関心の1つでもありますが、今回の研究は、まさに「リアルな日常」から収集したデータに基づいているという点で、その問いへの一つの答えになっていると思いました。
また、尊敬するウェルビーイング研究者の前野隆司教授は、ご自身も論文執筆はもちろんこと、森に入ったり、ダンスをされたり、書道をされたり、音楽ライブをされたり、漫才をされたり、実に多様な活動をされてらっしゃいますが、そこから「幸せは行動から生まれる」という視点を大切にされていることを私は学ばせていただいています。この研究はその方向性を、膨大な実証データで裏づけるものとしても位置づけられる1つだと思いました。
日常生活に引き寄せて考えますと、「ジムに行かなければ」とか「本格的な運動をしなければ」という構えずに、スマホで測定できる日常的な身体活動と日々の気分が関連しているということですので、通勤途中に少し歩く、近所を軽く散歩する、そういった「ちょっとした動き」が積み重なることで、気分や感情の質が向上していく可能性があるということだと思います。
あなたの毎日のなかに、「なんとなく気分が重いな」「調子が上がらないな」と感じる瞬間はありませんでしょうか。もしも心当たりがあるようでしたら、まずは、そのとき少しだけ体を動かしてみることを意識してみてはいかがでしょうか。「ちょっと動く」という小さな選択の積み重ねが、気持ちを整えてくれるきっかけになるかもしれません。
今回の論文は、原文が英語ではありますが、AIに翻訳してもらうなどもできるかと思います。面白そうと感じた方は、ぜひぜひ原文の論文も読んでみてください!
出典・参考文献・参考サイト
Rehder et al. (2026). An individual participant data meta-analysis of how physical activity relates to affective well-being in daily life. Nature Human Behaviour. Published online: 06 May 2026.
https://www.nature.com/articles/s41562-026-02427-2
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