子どもが外の世界に探索に出かけ、もし不安になったり失敗したりしても、戻ってくれば無条件で受け入れてもらえる場所。心理学ではこれを「安全基地(secure base)」と呼びます。イギリスの精神医学者ジョン・ボウルビィ博士が提唱した「愛着理論」の核となるこの概念は、子育てだけでなく、人が生涯にわたって幸福に生きるための根っこに深く関わっています。
ベネッセ教育情報の記事で紹介されている有識者会議のレポートは、まさにこの「安心できる基地」の重要性を、現代の子どもたちが抱える不登校や進路の悩みに重ねて紐解いています。ウェルビーイングの知の巨人、武蔵野大学しあわせ研究所の太田雄介客員研究員は、子どもたちに「やりたいことを見つけよう」と前向きな言葉をかける前に、まずは「ここに戻ってきていい」と思える心の土台づくりが必要だと指摘されています。
親や先生だけでなく、第三者のメンターのような「斜めの関係性(利害関係のない少し離れた大人とのつながり)」がこの安全基地として機能するという視点は、地域で子どもと接する私たち大人にとっても大きなヒントになるのではないでしょうか。
さらに私がこの記事で最も惹きつけられたのは、京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授が語る「自信」と「迷い」についての見解です。塩瀬准教授は、自信には過去の成功体験の積み重ねからくるものだけでなく、「どうなるかわからないけれど、一歩を踏み出してみる」という「挑戦型の自信(クリエイティブ・コンフィデンス)」があるといいます。不登校などで成功体験が足りないと感じている子どもには、この未知に挑むための新しい自信を育てることが、自分を守り、生きていくための大きな力になるというのです。
また、子どもが「将来の目標がわからない」と立ち止まることを「豊かな迷い」と捉える視点も、私の凝り固まった価値観を優しくほぐしてくれました。多様な選択肢を知り、「どの道も選べる」と気づいたからこそ安易に決められなくなるのは、子どもが自分の人生を真剣に考え始めた証拠だと捉える事ができます。横浜市立大学附属病院の石井美緒助教も指摘するように、この自己理解の揺らぎを大人が焦らず受け止め、一緒に地盤を作っていくプロセス自体が、子どもの未来へ歩き出す力に変わっていくんですね。
ついつい私たちは、子どもに先回りして正解を与えたり、「早く目標を持ちなさい」と急かしたりしてしまいがちです。しかし、子どもの幸福の土台となるのは、立派な目標や高い成績よりも前に、「迷ってもいい」「失敗しても帰る場所がある」という安心感の積み重ねなのだと思います。
私も二人の娘がいますが、子どもたち、あるいは職場の若い世代の人たちが何かに思い悩んで立ち止まっているようだと思うと、ついつい大切な存在だと思うからこそ、励ます気持ちや奮起させようとする気持ちが沸き上がってきます。しかし、そこで無理に背中を押すといった行動ではなく、まずは彼ら彼女らの「安全基地」になる! そのように意識することで、温かい眼差しと言葉で話を聞くことを始めてみようと思います。
出典・参考文献・参考サイト
子どもの「安心できる基地」をどう育むか。自信と自己決定を支える関わりかたを考える(ベネッセ教育情報) https://benesse.jp/kosodate/futoukou/shourai/202603/20260306-01.html
Bowlby, J.(1969)”Attachment and Loss, Vol. 1: Attachment.” Basic Books. 邦訳『I 愛着行動 (母子関係の理論 (1) 新版)』
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