スキルシェア※1がウェルビーイングの向上につながることを研究されている、青木慶さんへのインタビューの3回目です。第1回では、青木さんのこれまでの研究内容を紹介しつつ、スキルシェアを行うことで持続的幸福度が上がるというアンケート結果をお示ししました。第2回では、スキルシェアの始め方について実践者へのヒアリングをもとに考えてみました。3回目の今回は、ハンドメイド作品などの制作関連の事例をもとに、具体的なスキルシェアの方法について、掘り下げてみたいと思います。
「喜んでもらえる!」からすべてが始まる
スキルシェアの出発点について青木さんは、前回の料理教室の事例同様、ハンドメイド作品の場合も「とてもささやかな体験から始まることが多い」と話します。自分のために作ったアクセサリーを友人がほめてくれて、プレゼントしたら喜ばれた。そんな出来事の延長で、「私も欲しい」と言われて少しずつ広がっていくのだそうです。通園バッグや巾着袋といった布小物も同じです。「布を買うといくつか作れるので、どうせならと、周りの人に配るうちに自然と広がっていく」と言います。
やがて自分が作るものに自信がつくと、「minne(ミンネ)」や「Creema(クリーマ)」といった、ハンドメイド作品の販売プラットフォームに挑戦する人も出てきます。ただ青木さんは、オンライン上での「顔の見えない相手とのやり取りには不安もある」と指摘します。「類似作品を巡るトラブルや模倣の問題もあって、先後関係が証明できずにこじれるケースもある」とのこと、そのため、フリーマーケットでの対面販売や、SNSで知人に限定したやり取りを選ぶ人も少なくないと言います。そういえば私も、コロナ禍の期間にSNS上で友人から手作り布マスクを購入したことを思い出しました。
プラットフォームはオンラインだけじゃない
こうした背景の中で生まれたのが「つくるつながるマルシェ」です。「作り手の想いごと届けられる場があれば!」という発想が出発点で、常設の一店舗に加え、デパートなどの催事でポップアップストアを展開し、ハンドメイド作家さんの作品を受託販売しています。
「つくるつながるマルシェ」への出店者はInstagram(インスタグラム)で募集され、審査を通過した人のみが参加できます。青木さんは、「作家が店舗に常駐する必要もなく、接客や会計も任せられる」と、その特徴を説明します。「制作に集中したまま自作を販売できることが大きい」と話します。
来店者にとっても、複数の作家による多様な作品に出会える場になっています。「出店者同士が互いに作品を購入しあうことも多く、自然にコミュニティが生まれている」とのことです。マルシェの創設者も元は作り手ですが、「今は“場を育てること”の方が面白い」と感じ、活動の軸を移しているそうです。
ハンドメイドで稼ぐことはできるのか?
ただ、「ハンドメイド作品はどうしても時間と手間がかかる」と青木さんは指摘します。「夢中で作っている時は楽しいのですが、その分まとまった時間が必要で、量産も難しい」。材料費などのコストも馬鹿にはなりません。結果として「収益面では限界があり、時間の切り売りになりやすい」と話します。その結果、ハンドメイドだけで生計を立てている人は多くないそうです。
そんな中で、個人のものづくりのアイデアが量産につながった事例もあります。たとえば、子育て中の父親が考案した「抱っこ紐に早変わりするバッグ」は、テレビに取り上げられたことをきっかけに企業とつながり、商品化が検討されました。ただし、「赤ちゃん向け製品は安全基準が非常に厳しい」。そのため、「最終的には企業側が一から設計し直す形になった」と言います。
個人のアイデアを企業につなぐプラットフォームも生まれています。「Wemake」は、企業側がプロジェクトを立ち上げ、一般からアイデアを広く集めてマッチングさせる仕組みです。面白いのは、単なるアイデア募集ではなく、企業側とやり取りしながら、自分でプロトタイプまで作る必要がある点です。青木さんは、「専門性は求められるが、その分、実現性は高い」と評価しています。青木さんがインタビューした中では、離れて暮らす高齢の親にスマホの使い方を教える操作支援装置を考案し、ベストアイデアに選ばれた、という方がいらっしゃいました。受賞アイデアには賞金が贈られ、これが次のアイデアのプロトタイプを作る原動力となっているようです。
結局、「ハンドメイドだけで大きく収益化するのは簡単ではない」と青木さん。企業と組む、仕組みに乗せるといった工夫が必要になってくるようです。また、収益化の方向としては、「作る側から、教える側へシフトする道もある」と指摘します。「教えるスキルは在庫を持たず、時間や場所の制約を受けにくい」ため、広げやすいのだそうです。
それでも残る、「つくる理由」
青木さんは、インタビューを繰り返す中で、「子育て中でも社会とつながれる」、「家族以外の誰かを笑顔にできる」といった点が、ハンドメイドを続ける支えとなっていることが見えてきたと言います。作品を通して誰かとつながり、喜んでもらえる。その実感がウェルビーイングの向上につながっているのです。「ハンドメイドを楽しみとして続けるのか、収入につなげるのか。自分なりの位置づけを見極めることが、長く続けるためのポイントになるのでは?」と締めくくりました。
次回は、趣味が高じて副業につながった方の事例を紹介します。
※1スキルシェアとは?
スキルシェアは、大きく分けて空間・移動・スキル・お金・モノの5つの分類されるシェアリングエコノミーのひとつ。シェアリングエコノミーとは、個人が保有する資産を、他の人にも利用可能にする経済活性化活動のことです。デジタル庁によれば、スキルのシェアとは、個人が有する技能をインターネット上でマッチングして、必要な人に有償で提供することとされています。青木さんはもう少し広く、オンラインでの活動だけでなく、直接のやりとりも含め、「個人知を他者に共有すること」と定義しています。スキルシェアには有償のものだけでなく、金銭のやりとりが発生しない無償の活動も含まれます。
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