ウェルビーイング関連情報総合ポータルサイト。ウェルビーイング関連の健康・幸せ・働き方・地域・企業・教育などの最新情報・実践知・研究論文紹介などコツコツ発信中です。

幸せになるほど地球の負荷は増えるのか。ウェルビーイングと環境問題の二項対立を問い直す

日々是幸日

「幸せになるほど、地球環境との共生に関わる項目が悪化する。」

この言葉を最初に見たとき、正直なところ、しばらく考え込んでしまいました。私がプロギング(ジョギングしながらゴミを拾うスウェーデン発祥のフィットネス)の活動を静岡県内を中心に続けているのは、自分自身はもちろん、地域の方々も一緒に楽しみながら、地域の環境にも自然と貢献できるという感覚があるからです。

2025年11月、横浜で開催されたアジア・スマートシティ会議2025(ASCC)にて、「環境アクションとウェルビーイングの両立」をテーマにしたセッションが行われました。登壇したのは、スマートシティ・インスティテュート代表理事の南雲岳彦氏、環境省大臣官房総合政策課 環境計画室長の黒部一隆氏、横浜市政策経営局データ経営部データ経営課担当課長の出口聖子氏、横浜市立大学研究・産学連携推進センター特任講師の雨宮愛理氏という4名です。

私は、デジタル庁 地域幸福度(Well-being)指標活用ファシリテーターとしての学びを南雲岳彦先生からいただいていたこともあり、このセッション内容は特に強く刺さりました。

南雲先生がセッション冒頭で提示したのは、UNEP(国連環境計画)のレポートやSDGsの進捗データです。各国のデータを見ると、主観的な幸福度が高い国ほど、気候変動や海洋汚染に関連するSDGsのスコアが低い、という負の相関が確認されているといいます。つまり、生活満足度の高い国の人々ほど多くの資源を消費し、CO2を排出している傾向があるということです。南雲先生はこの状況を「人間と地球のウェルビーイングが二項対立の状況になっている」と表現しました。

注目したいのは、この問題が単なる「意識の低さ」や「モラルの欠如」では説明できないという点です。頭ではわかっていても、行動や心の満足度はそれに一致しない。南雲先生はこの乖離を乗り越えるためには、「課題の重大さの認識」、「実行可能性への信頼」、「自己満足を超えた社会的な善の実感」という複数のハードルを越える必要があると指摘されています。

環境省の黒部氏は、時間軸という視点から鋭い補足を加えました。現在の私たちが感じる主観的なウェルビーイングだけを指標にすると、将来世代のウェルビーイングを確保する責任が抜け落ちるというのです。黒部氏は気候変動を「毎日、肝臓が分解できないほどのアルコールを入れ続けている状態」に例えた上で、決定的な違いをこう述べています。「自分の肝臓が悪化しても負担を背負うのは自分だけ。しかし、地球という肝臓は未来永劫、子や孫、まだ見ぬ世代と共有し続ける身体だ」と。

この視点はウェルビーイング学においても重要な問いを投げかけます。ウェルビーイング学の第一人者、前野隆司教授が示す「幸せ」のあり方は、自己充足だけでなく、他者・社会との関係性の中に置かれています。「現在の自分だけの充足」を幸せとみなす定義では、将来世代という「他者」を視野から外してしまうことになります。

では、どうすれば環境アクションが「我慢」ではなく、ウェルビーイングと両立できるのか。横浜市の出口氏が提示したヒントは、「指標(KPI)の置き方」でした。「CO2を何トン削減する」という市民には実感しにくい目標ではなく、「地域のゴミ拾いに参加する」「リユース品を選ぶ」という具体的な行動を指標に組み込むことで、参加そのものが人とのつながりを生み、結果として個人の幸福度を高める可能性があると示しています。

これは研究にも裏付けがあります。ロチェスター大学のエドワード・デシ教授とリチャード・ライアン教授が提唱する自己決定理論(SDT)は、人が内発的に動くために「有能感」「自律性」「関係性」という3つの基本心理欲求が必要だと示しています。「CO2削減」という巨大な目標は有能感も自律性も感じにくいですが、「今日、ゴミ拾いに参加した」という行動は3つの欲求すべてに働きかける可能性があります。

雨宮氏は「自分の身体で感じられる指標」の重要性を指摘しました。熱中症の危険を身体で感じるように、地球環境の危機を肌感覚として翻訳できる仕掛けが必要だということです。これは、抽象的なデータを「じぶんごと」に変換する媒介として、非常に示唆に富む視点です。

私たちは「現在の幸せ」の定義そのものをアップデートする必要があるのかもしれません。それは大袈裟な話ではなく、将来世代や生態系を視野に入れた時間軸でウェルビーイングを考えるということです。環境と幸福の二項対立を解くカギは、指標の設計と、自分の身体感覚という二つの「翻訳」の中にある、と私は受け止めました。

実はすでに、2015年から将来世代のための幸せを考えて政策を実践している国があります。英国のウェールズです。こちらの内容はまたいつか詳しく記事にできたらと思いますが、ウェールズの政策は、国連でも注目され、日本においても、ウェールズを参考にした政策が検討されはじめています。

出典・参考文献・参考サイト

幸せになるほど地球の重荷になっていたら?環境問題とウェルビーイングの”二項対立”の乗り越え方を問う【ASCC2025レポート】(Circular Economy Hub)
https://cehub.jp/report/ascc-wellbeing/
Deci, E. L., & Ryan, R. M.(1985)”Intrinsic motivation and self-determination in human behavior.” Springer.

この記事に “ありがとう” を伝えますか?
やさしい気持ちが私たちの励みになります!
父/夫/Webプロデューサー

自宅庭にあるレモングラスのハーブティーとエナジードリンクとプロギング好きの当サイトWebプロデューサーです。幸福学の第一人者、前野隆司教授のVoicyにある「ディープタイムウォークVoicy版」を聞きながら森の中を歩くことにかなり心地良さを感じてます。三島ウェルビーイング協議会/ウェルビーイングプロギング代表。プロギングジャパン認定プロギングリーダー、GLOBIS公認学び放題アンバサダー、デジタル庁 地域幸福度(Well-being)指標活用ファシリテーター、ウェルビーイング ダイアログカード認定ファシリテーター、静岡県三島市在住です。SNS繋がり大歓迎です!

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

コメントを残す