日本財団ジャーナルが若い世代に向けて発信した「ウェルビーイングってなんだろう?」という記事を読みました。とてもわかりやすい平易な言葉で書かれていて、これからウェルビーイングと言う言葉を理解しようかなと思う人にとって、このような接点がますます増えていくとうれしいなと感じました。
今回の記事の根底には、国際比較データが示す日本の大きな特徴があるように思いました。日本の子どもたちは、生存率や医療環境、食生活といった「身体の健康」の観点では世界トップレベルを誇ってます。世界的に見ても、日本は最も安全で、健やかに育つためのインフラが整っている国と言っても決して言い過ぎではないと思います。一方、精神的な満足度や自己肯定感においては、まだ伸びしろが大きいという課題もはっきりと浮かび上がっています。
マズローの欲求5段階説にあるように、見方を変えれば、私たちは「生きるための安全」という最も強固な土台をすでに築き上げたからこそ、次のステップである「心の満たされやすさ」や「人とのつながりの豊かさ」に向き合えるフェーズに到達したといえるように思います。(あ、ちなみに、マズローは晩年に自己超越の段階を加えて、6段階としていますが、一般的に5段階説と呼ばれていますので、ここではそのように呼ばせてください。)
記事で紹介されている具体的な実践例には、その新しい時代のヒントが詰まっています。北海道の中頓別町では、新しい学校づくりのために地域の大人と子どもたちが対話を重ね、制服や校歌まで自分たちで形にしていこうとしています。また、東京学芸大学附属竹早中学校では、生徒たちが家具メーカーのプロと共に「自分たちが心地よく学べる空間」を自らデザインしました。
これらの取り組みに共通しているのは、大人があらかじめ用意した「正解」を与えるのではなく、「自分たちの手で『場』をつくっていく楽しさ」を共有している点です。
この「自分たちの環境を自ら整え、場をつくるプロセス」がなぜ人の心を根本から高めるのか。そのメカニズムを学術的に見事に裏付けているのが、オーストラリアのウェルビーイング心理学者フェリシア・ハッパート教授(ケンブリッジ大学名誉教授)らが提唱した「FLOURISH(フローリッシュ)」のフレームワークです。
ハッパート教授らの研究(Huppert & So, 2013)では、真のウェルビーイング(持続的幸福)状態を単なる「ポジティブな気分」ではなく、10個の多面的な因子(ポジティブ感情、関与、意味・目的、自律性、前向きさ、レジリエンス、自己受容、関係性、達成感、情緒的安定)が相互に作用し合って咲き誇る状態と定義しています。
中頓別町や竹早中学校の事例で起きているのは、まさに「自律性(自分で決める)」と「関係性(人と協力する)」、そして「関与(夢中になって取り組む)」が重なり合い、一人ひとりの心が生き生きと花開いていく(Flourishする)プロセスそのもののように捉えました。
ウェルビーイングとは、崇高で完璧な理想を目指すといった何か遠い場所の状況であると思われる人もいらっしゃるかもしれません。しかし、自分の身近な空間を少しだけ使いやすくしてみたり、誰かと一緒に「どんな場所だったら楽しいか」を話し合ったりするような、ごく日常的で主体的な関わりの体験によってウェルビーイングは育まれ、自分で選び、誰かと共に形にしていく体験の積み重ねが、やがて「自分はここにいていいんだ」という場に対する安心できる実感に変わり、ウェルビーイングを育む土壌となります。
そういった意味において、私たちは、より日常の小さな工夫や対話を通じて「居心地の良さ」を足元から育てていくことができます。
身近な職場や家庭、地域について「どうすればここが、もっと過ごしやすい場になるだろうか」とちょっとひとりで考えてみる。そして、できれば、職場や家庭、地域の人たちと顔をあわせたときに、一言問いかけてみる。その小さな考えはじめや行動が、自分自身と周りのウェルビーイングな場を育むことのきっかけになっていきます。今日からその一歩を進めてみませんか。
出典・参考文献・参考サイト
毎日笑顔で過ごしたい! 「ウェルビーイング」ってなんだろう?(日本財団)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2026/119045/social_good
Huppert, F. A., & So, T. T. (2013) “Flourishing Across Europe: Application of a New Conceptual Framework for Defining Well-Being.” Social Indicators Research, 110(3), 837-861.
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